7通目:優秀な人材がいると、不安になる心理。

B!

 
ある会社の会議室。
 
といっても…倉庫を兼ねているようで、
スペースの半分には、
仕事で使う消耗品・機材などが置いてあります。

 
几帳面なY社長らしく
きちんと整理整頓されている様子を
感心しながら見ていると、
 
”トントン” 
  
「村田先生、いま呼んできますから」

扉から、
ちょこっと顔を出すY社長。

 
しばらくすると、
30代中盤であろう、
若い社員を引き連れて戻ってきました。

 
その社員は、
Y社長曰く、将来の幹部候補。

 
とても優秀なので、
役員にしようかどうか迷っている…とのことで、
私に面談の依頼が来たのです。

 
約1時間の面談を終え、
再びY社長と2人だけの会議室となりました。

 
「村田先生、どうでした?」

早々に答えを聞きたがるY社長に
私は言いました。

 
「おっしゃる通り、とても優秀な方ですね。
Y社長が役員に迎えたくなるのも分かる気がします。

ですが、
役員にするのは、もう少し待った方がいいでしょう

 
私の返事に、困惑したような表情を見せるY社長。

私は続けます。

 
「いまから、とてもイヤなことを言いますが、
お許しください。

Y社長…、優秀な人材が入ってきたことで
少し恐怖を感じていませんか?

優秀な人材というのは、とても有難い反面、
最大の敵になる危険性をはらんでいます。

 
特にY社長の業界では、

”人に仕事がつく”

そんな傾向が強いですよね。

つまり、
その人が独立したら、仕事を持っていかれる。

 
そうならないようにするために、
早いうちに役員にして、囲ってしまおう…、

言い方は悪いですが、
そんなことを考えていませんでしたか?」

 
私の問いかけに、
ばつが悪そうな顔をするY社長。

 
「…、そうかもしれません。
自分でも、何か違和感があるから、相談したんだと思います…」

 
そんなY社長に、私は言いました。

「大丈夫です。みんなそうですから。
優秀な人材というのは、
欲しくて、それと同時に、こわいものなんですよね。
もちろん、私自身もそうですよ」

 
「Y社長の会社は、まだ若い。

企業文化というのも、
いまはまだ、社長の中だけにある状態です。
多くの社員は、はっきり言って、理解していません。
 
いま、社長の中にあるものを、
シンボルとして可視化しようと取り組んでいるわけですが、
シンボルをつくり、もう少し企業文化を浸透させ、
それでもなお、辞めずに残っている。
 
そのときに、
もう一度考えるということでも
遅くはないと思いますよ。

企業文化を理解させないうちに、役員にしてしまったら、
それこそ…、大変なことになるかもしれません

 
私の説明を受けて、

”シンボルを完成させ、企業文化を浸透させることの方が先”

そう理解して頂けたようでした。

 
中小企業にとって、
人の問題というには、本当に大きいです。

 
誤解を恐れずに言えば、

”優秀な人は、まず来ない”

誰でも名前を知っている大企業であれば、
有名大学を卒業したエリートたちが、
何も言わずとも、勝手に入ってきますが、
中小企業はそうはいきません。

 
必死にリクルートして、
ようやく獲得するわけです。

その、苦労して獲得した人材が、優秀だったら…、

それはもう、”奇跡”

宝くじに当たったような感覚です。

私自身も中小企業経営者の端くれですから、
Y社長の、手放したくないという気持ちが
痛いほど分かります。

 
出来ることなら、
この奇跡の確率を上げたい…、

 
そう願っている経営者の方も
たくさんいらっしゃると思いますが、
その奇跡の確率を上げるひとつが、
シンボリックだと考えています。

 
社長の想いや、商品・サービスに込めた想いを
シンボルとして表現する。

まるで、
戦国時代の武将が、
家紋を記した旗を振り、味方を集めるように、
同じ志を持った人たちを、シンボルで集める。

 
あえて、
もう一度繰り返しますが、
中小企業に優秀な人材が集まるのは奇跡。

 
異論反論もあると思うのですが、
これが現実だと私自身は考えています。

 
もともとが奇跡ですから、
目印になるシンボルがなければ、
奇跡はほぼ起きない。

400万社近くある中小企業の中から、
目印もなく、偶然選ばれる確率は、
かなり低いのは間違いないでしょう。

 
ということで、

Y社長はいま、
シンボルの完成、そして、企業文化の浸透のために、
日々悪戦苦闘しています。

 
しかし、

この闘いを制し、
きっと素晴らしいシンボルをつくり上げることでしょう。

 
そして、

「同志よ、集まれっ!」

Y社長が降る旗紋を目指して、
多くの優秀な人材が集まってくることでしょう。
 
 

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